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固定残業代は、残業の有無にかかわらず、割増賃金の支払いに代えて、一定額の手当を支給する、または基本給に組み込んで支給する、というものです。
この制度を導入している法人、個人事業主(以下、「使用者」と言います。)は数多く存在します。
ただ、単に、「固定残業代」という名称を使用して一定額を支払っていれば、「労働者がいくら残業をしても、それ以上に残業代を支払わなくてもよい。」、「当然、固定残業代は、残業代の支払いとして認められるだろう。」と考えている使用者も、いらっしゃるかもしれません。
しかしながら、固定残業代を支払っていたとしても、実際の残業時間をもとに計算した残業代が、固定残業代を上回る場合には、その差額を別途支給する必要がありますので、「労働者がいくら残業をしても、それ以上に残業代を支払わなくてもよい。」などということにはなりません。
例)固定残業代として毎月5万円を支払っていた。
ある月の残業時間をもとに残業代を計算したら6万円の残業代が発生していた。
6万円-固定残業代5万円=1万円は、あらためて支給が必要となります。
※なお、上の例で、逆に残業時間をもとに残業代を計算したら4万円だったとしても、4万円-固定残業代=マイナス1万円になるので、返還を求める、ということは当然出来ません。
さらに、「固定残業代」という言葉を使っていれば、それが必ず残業代として認められるというわけではありません。固定残業代が残業代として認められるためには、一定の要件が必要とされています。
その要件を充たしていなかった場合、せっかく固定残業代を残業代として支払っていたのに、裁判ではそれが認められず、その結果、残業代は1円も払っていなかった扱いになるばかりか、固定残業代までもが、残業代計算の基礎賃金に含まれてしまい、残業代計算における時間単価(基礎賃金÷月平均所定労働時間=時間単価)が大幅に増加してしまった、というケースも数多く存在します(東京高等裁判所平成30年10月4日判決(労働判例1190号5頁)など)。
そのため、場合によっては、固定残業代など払わず、実際の労働時間に応じた残業代を払っておいた方が、労働者に支払う残業代は低額で済んだ、というケースも多数存在しています。
例)基本給30万円、固定残業代5万円というケースで、固定残業代の有効性が否定された場合、30万円+5万円=35万円を基礎賃金として、時間単価を計算することになる(加えて、この5万円は残業代の支払いとは認められないことになる。)。
これに対して、基本給30万円で、実際に生じた残業代を計算して支払う、という制度の場合、30万円だけを基礎賃金として、時間単価を計算することになるため、時間単価が前者よりも低額になる。
ちなみに、固定残業代が有効となるか否かの判断基準としては、一般的には以下のように説明されています。
⑴通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が明確に区分されていること。
⑵割増賃金として支払われた賃金が時間外労働の対価としての性質を有すること。
⑴が必要な理由としては、どの部分が通常の労働時間の賃金で、どの部分が残業代であるのかが判別できないと、割増賃金の計算基礎となる基礎賃金が不明であり、正確な残業代の計算ができなくなるため、とされています。
例) 「給料40万円(固定残業代含む。)」とされていた場合、労働者としては、いくらを基準として、残業代計算における時間単価を算出(基礎賃金÷月平均所定労働時間)すればよいのかが不明となる(35万円÷月平均所定労働時間なのか、30万円÷月平均所定労働時間なのかが不明ということです。)。
⑵については、使用者が時間外労働等に対する手当である、と主張するものが、時間外労働時間に対する対価としての性質を有していない(実は歩合給だった)、あるいは他の性質も含んでいる、いう場合には、それを残業代の支払いとして扱うことはできない、という当然のことを定めたものです。
それ以外にも、実際に、固定残業代と実際の残業代との差額を支払っていることも、固定残業代制度が有効となるための要件として必要である、というような考え方も存在するなど、裁判例は多種多様です。
そのため、固定残業代を導入するには、それなりのリスクが伴うということを理解しておく必要があると思います。
固定残業代の導入を検討している使用者は、そのリスクと、固定残業代を導入するメリットとをしっかりと検討していただく必要があると思います。
また、既に、固定残業代を導入している使用者も、あらためて、自らの制度設計に問題ないかを、しっかりと確認、検討していただく必要があると思います。
著者情報
弁護士:彌田 晋介
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